Column 成定竜一の”バス事業者マネジメント論“ 第3回 バス乗務員不足の真因は?
筆者 成定 竜一 氏
高速バスマーケティング研究所代表。
1972年生まれ。早稲田大学商学部卒。ロイヤルホテル、楽天バスサービス取締役などを経て、2011年に高速バスマーケティング研究所設立。バス事業者や関連サービスへのアドバイザリー業務に注力する。国交省バス事業のあり方検討会委員など歴任。
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<今年の20歳人口は50歳の6割>
近年の人口減少は、市場縮小のみならず、働き手不足の面でもバス事業に影響を与えている。
戦後ベビーブーム、いわゆる「団塊の世代」各年の年間出生数は、約270万人もあった。この世代は現在70代後半を迎えており、ここ10年ほどで多くの人がリタイアを済ませた。「団塊ジュニア」である筆者の世代の年間出生数も約210万人ある。だが今年の20歳は約112万人。筆者の世代の6割しかいない。ちなみに、今年の出生数は70万人割れが予測されている。
つまり構造的な人手不足は、生産年齢人口の急減に起因する。決して特定の業界、企業の問題ではない。
当然、どの業界も危機への対応に必死だ。対応の一つ目は雇用の多様化で、典型が「シニア、外国人、女性、若年層」の4類型だ。
ただバス乗務員不足の話に限ると、高齢になるほど健康起因事故のリスクがあるし、もともと「ワンオペ」で事故や災害時の緊急通報、避難誘導に際し相当な日本語能力が必要なことを考えると、シニアと外国人の活用には限界がある。
<女性や若年層掘り起こしの実効性は?>
一方、女性乗務員の比率は約2%に過ぎず、約8%の自衛官などと比べても少ない。また原則として業界内の転職がない鉄道運転士などと違い、大型二種免許さえあれば転職が容易なバス業界では、社内での乗務員養成に消極的で若年層の活用も遅れていた。だから女性と若年層の拡大余地は大きそうだ。
もっとも、女性の有業率は既に5割、25~39歳に限れば8割を超えており、前述の通り若年層は急減している。女性や若年層は業界、企業間で取り合い状態で、その獲得は決して容易ではない。
もう一つ、各業界が急ぐ対応がIT化による省力化だ。多くの業界で要員数の減少につながっている。
だがバスはもともとワンマン運行が中心で「1」を「0」にするのは困難だ。自動運転技術は、現状では事故防止や乗務員の負担軽減に寄与しているが、要員数削減にはつながらない。
そもそも近年の規制緩和で事業用バスの台数が増加し、コロナ前までの20年間でバス乗務員の定数は2割程度増加していた。人口減少が激しくなる前から、バス乗務員は事業者間で取り合いになっていたわけだ。筆者らが、バス乗務員専門の求人サービス『バスドライバーnavi(どらなび)』をリリースしたのは2014年だから、10年前には乗務員不足が顕在化していた。
<乗務員不足の真の原因を理解して情報発信を>
つまり、バス乗務員不足の原因は「不人気だから」では決してない。国全体で労働力不足が急速に減少し始める中で定足数が増加したことが原因だ。また、これ以上の省人化が難しいことが、問題の解決をさらに困難にしているのだ。
そんな中、関係者が、乗務員不足の理由として「若者のクルマ離れ」を理由に挙げていて驚いた。現在でも、20~24歳男性の普通免許保有率は70%もある。保有率は20年前と比べてほとんど落ちていない。だが、その免許保有者の実数は3割も減っている。若者がクルマ離れしているのではなく、単に若者が減っているのだ。
一時が万事だ。空前の乗務員不足に浮足立ち、まるでバス業界だけが不人気であるかのように、自分で理由をでっちあげてしまっている。
過去何件かの大事故の際に、業界最底辺に当たる事業者の勤務実態が大きく報道されたこともあり、社会がバス乗務員という職種に持つ印象は大きく悪化した。「バス乗務員=不人気」という情報の出し方は、求人に影響する上、現役乗務員の自尊心さえ毀損しかねず、マイナスの方が大きい。バス乗務員が不足していることは事実だし待遇改善をはじめ業界の努力が求められていることは間違いないが、その前に業界全体で情報の出し方に注意する必要がある。