第三回対談 【本社と現場が協力しながら対応している社風から知るインバウンドへの取り組み】濃飛バス
三回目は、インバウンドで賑わう岐阜県高山市に本社を置く濃飛乗合自動車株式会社(以下 濃飛バス)常務取締役 経営企画部・営業部担当 坂上博幸様と営業部 部長 北平英明様にお話をお伺いしに高山の本社に訪問いたしました。
濃飛バスはコロナ禍を乗り越えてインバウンド取込みで賑わうバス会社です。これまでの取り組みや課題と克服ポイントをお聞かせいただきました。
<本日のキーパーソン>
濃飛乗合自動車株式会社 営業部
常務取締役 坂上博幸 様
部長 北平英明 様
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10年以上前からのインバウンドへの取組
株式会社オーエイチ 高橋(以下、高橋):本日はお忙しい中、お時間をいただき、誠にありがとうございます。
平日なのに高山は賑わってますね。ここに来るために今朝、奥飛騨温泉郷の福地温泉より貴社の路線バスに乗りましたが、ほぼ満席でしたよ。しかも、ほとんどが外国人で日本人は私を含めてわずか3人くらいでした。福地温泉のバス停で私以外にバス待ちをしていたのは、オーストラリア、イギリス、イスラエルからのお客さまでした。
インバウンドが増えだしたのはいつ頃からですか?
濃飛バス 坂上様(以後、敬称略):本格的に増えだしたのは2014年頃からですかね、2015年頃からは目立って増えてきました。
高橋:2012年頃から始まった昇龍道プロジェクト※は影響ありましたか?
※官民を挙げ中部圏に外国人観光客を呼び込むプロジェクト
坂上:国を挙げてのプロジェクトだったので影響はあったと思います。
このようなプロジェクトをしていただけて、ありがたく思ってます。
高橋:インバウンドが増えだして現場はどうでしたか?
坂上:インバウンドが増える前の2009年頃から、これからはインバウンドが大切になると思い、多言語WEBサイトを用意したり、案内関係の多言語対応を整備したりしていたので、当初は多少言葉の問題はありましたが、大きな混乱はありませんでした。
更に、2010年のバスセンターと本社の建て替え時に本格的に多言語サインを整備しました。
濃飛バス 北平様(以後、敬称略):そうそう、英語のやり取り帳を作って車両に搭載しました。今も使ってますよ。
坂上:今はスマホのアプリも使ってますね
高橋:言語は基本的には英語ですか?
坂上:はいそうですね。車内放送に関しては英語と中国語ですね
困っている外国人に何とかしたいという気持ちから
高橋:最近は、窓口も乗務員さんも外国語対応してますか?私が見ている限りでは皆さん、慣れて落ち着いて対応しているように見受けられますが。
坂上:はい、みんな本当に頑張ってくれています。独自で勉強して、気が付いたらぺらぺらに話していて人もいて、本当に感心しています。皆、一生懸命やってくれているのですが、まだ英語以外になってしまうと難しいところはありますね。
今は、窓口に中国人とスリランカ人がいるのですが、今後もさらに中国や韓国などからのスタッフが合流する予定です。
高橋:どうやって募集をしているのですか?
坂上:普通にマイナビなどを使ってますが、語学学校さんにも相談しています。
高橋:ポケトークなどの機器は使ってますか?
坂上:機器は多くは使っていませんが、英語の勉強をしたり、身振り手振りでご案内したりしていますね。どうにもならないときは機器を使う事もありますね。機器も進化しているので、今後は導入も検討したいですね。ただ、自分の所の社員をほめるのもなんですが本当にみんなよくやってくれています。
高橋:私も高山・新穂高ロープウェイ線などに乗車していると乗務員さんの外国人への対応力にはいつも感心してます。皆さんこのモチベーションはどこから来ているのですか?
北平:うちのドライバーさんは優しい人も多いので「困っている外国人に何とかしたいと」と思ってくれているのだと思います。特にコロナ禍でお客さまの居ない時代を経験しているので、よりお客様に優しくなれた気がします。
坂上:高山市の人口は約8万人なので通常路線や貸切だけではバス事業は成り立ちません。観光のお客様、海外のお客様にご利用いただくのはとても重要です。
なので観光や海外のお客様を大事にしようとする意識が強いですね。
高橋:海外の方も皆様の路線が無いと困ってしまいますよね。
坂上:物凄く遠い所から飛行機に乗って長い時間をかけて高山まできていただいたので、行きたいと思っているところに確実に行けるようにすることが最重要ですね。満席で乗れないことをなくすのが最優先だと思ってます。
社員には、日本に来るのを楽しみにして高山を選んでいただいているので、気持ち良く楽しんで良い思い出を作っていただくように、話をしていますね。
北平:みんな楽しく気持ちよく、頑張ってくれています。
高橋:語学研修などは行ってますか?
北平:最初の頃は行いましたが、当初のみでしたね。気が付いたら現場で磨かれたり、自主的に勉強したりして、自信もって英語で話し、ご案内する社員が増えました。
坂上:これもコロナを経験して、みんな今の状況を大変だけどありがたく楽しいと感じてくれていますねぇ。
北平:コロナ禍を経験して、人間力が上がって優しくなって外国人に対しての対応力が向上したと思います。
高橋:それは素晴らしいですね。
また、根底には現場や乗務員さんも困ったことを会社に相談できる良い雰囲気があるのではないでしょうか?
北平:そうですね。出来る出来ないはありますが現場の声は大切にしてます。
トランク付車両への一新、ニーズをキャッチ
北平:そうそう現場から悲鳴が上がってきたのは、言葉の問題よりも荷物の問題でしたね。大きなスーツケースを持ったお客様が増えきて、荷物をどう載せるかで混乱していました。そこで、車両をどんどんトランク付きに更新していきました。
平成24年、25年頃には一気に車両を更新しました。路線バスでこれだけトランク付きが多いのは当社くらいではないかなぁ。
坂上:それに当初は精算の関係で苦労しました。慣れない日本円での現金精算に時間が掛かっていました。タッチ決済など導入出来れば良いのですが、そこにも課題があって。そこで、バスセンターでの事前購入やフリー切符、モバイル乗車券の販売に力を入れました。
高橋:フリーパスなどは効果が大きそうですね
坂上:はい、フリーパスの効果は大きいですね。
フリーパスご利用で乗り降りがスムーズになって、乗務員の負荷がかなり軽減されて、お客様にも、ご不便ご迷惑をおかけすることが軽減されました
特にモバイル乗車券の普及には力を入れています。
高橋:どのようにモバイル乗車券の告知やプロモーションをしているのですか?
坂上:バスセンターでチラシやポスターなどで案内してモバイルチケットに誘導したり、多言語のホームページ等でもモバイル乗車券の購入を促したりをしています。その他には海外OTA等を通してフリー乗車券、セット乗車券類を販売しています。
高橋:海外の旅行博や商談会にも参加されていますか?
坂上はい、参加しています。
しかし、私達単独での出展は難しいので、名鉄グループや地域の観光協会や自治体等と連携して参加しており、今後もその予定です。
北平:フリーパスやモバイルチケットが増えて、最近は聞きなれないバス停を利用する外国人も現れて、私も「そのバス停ってどこだったけなぁ?となりそうですよ。」(笑)
ガイドと双方向のコミュニケーション
高橋:路線バス、高速バス以外に白川郷などの定期観光バスもあると思いますが、ガイドさんはどうされていますか?
坂上:今は8割くらいが外国人のお客様なので英語を話せるガイドさんが担当してます。
高橋:ツアーだと外国人だけ、日本人だけと分かれていますが、御社の定期観光路線は混載なのが特徴ですね。
坂上:以前は日本語ガイドと英語ガイドの二人で担当していましたが、今は英語を話せる地元の日本人ガイドが一人で担当しています。
北平:そうそう、私たち日本のバスガイドは観光案内を一方的にしてしまいますが、海外の方はそのスタイルはあまり好んでいない気がします。一生懸命ガイドをしていますが、あまり聞いていない気がしますね。
その代わり、お墓や、稲が干してあることだったりと、観光以外に興味関心を持ってくれてどんどん質問してくれて、ガイドと双方向のコミュニケーションを楽しんでますね。
一方的な観光案内は日本人向けで、外国人からの質問や興味関心には英語で応えるスタイルで満足度が高まっている気がしますね。
高橋:学校教育もそうですよね。日本は先生から一方向が中心で、アメリカなど生徒同士や先生と生徒での双方向のコミュニケーション中心だから文化や感覚が違いますよね。
北平:多言語での自動観光案内導入も考えたのですが、外国人の満足度にはあまり貢献しない気がして・・・
海外のお客さまはコミュニケーションを楽しみにしてますね。
今後の課題や目標
高橋:今の課題は?
坂上:やはり乗務員の確保ですね。
地元での採用はなかなか難しいので、自然の素晴らしい景色を眺めながら乗務できることを売りにしたりして、当社ならではの環境をアピールして来ていただきたいと思ってます。
高橋:更に濃飛バスさんの場合、世界を相手にグローバルな乗務が出来るのも魅力ですね。本人次第でしょうが、英会話ができるようになりますしね。それも売りになりそうですね。
北平:そうですね、私たちらしさ、この高山らしさで乗務員不足を乗り越えたいと思います
高橋:今後の計画や目標はありますか?
坂上:今はまだ、高山、白川郷、上高地に集中してしまっているので、今後はよりマイナーな場所や新しい場所を開拓してより滞在時間を増やすかが課題です。直近ですと神岡のガッタンゴーに在庫をいただいて、バスとセットで販売してます。こちらの商品は海外の方が3割くらいになってます。
更に小坂の滝や飛騨古川などメジャーではないがとても良い所をご案内して、足を運んでいただけるようにしたいですね。
高橋:告知はどうしていますか?
坂上:まだ、WEBやバスセンター告知くらいなのでこれから本格化したいと思ってます。
北平:やっぱりSNSとWEBは大切ですね。上高地が人気になったのはSNSとWEBの影響も大きい気がします。
高橋:そうですね、やはりWEBやSNS活用が良いと思います。奥飛騨の中でもさらに不便な立地なのに連日外国人で賑わっている小さな居酒屋があるのですが「どうやってここを見つけたの?」と聞くと多く外国人は「Google」と答えますよ。
坂上:そうなんですかぁ?
高橋:そうですね、奥飛騨の平湯バスターミナルもかなり変わりましたね。
コロナ前より個人旅行化して、欧米人が増えた気がしますね。
坂上:平湯バスターミナルの売店もそれに合わせえて商品を変えたりと工夫してますね。また、奥飛騨エリアだと上高地に行く外国人は増えたのですが、隣の乗鞍岳はまだまだ少ないので、先ほどの新しい目的地として乗鞍岳も広めたいですね。標高2,700mの山に歩かずに行けて絶景を楽しめますから。
まだまだ、沢山ある魅力的なところへの分散化も進めたいですね。
高橋:このエリアは魅力的なコンテンツが多いいのでより世界の人に知っていただき、楽しんでいただき、良い思い出を作ってもらえるように私達も努力します。
インバウンド対応の先駆者として、全国のバス会社の皆さんへメッセージをお願いします。
坂上:私達もまだまだ、途上で何か言えるような立場ではないですが、折角日本を選んで、飛行機にのって長い時間をかけてお越しいただいているので、楽しい思い出を作っていただけるようにWelcomeなお気持ちを一番にしてくださると良いと思います。
私達もそこを大切に今後も努めたいと思ってます。
高橋:本日は貴重なお話をお聞かせいただき誠にありがとうございました。
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【編集後記】
今回、お話を聞かせていただき強く感じた事は、本社の方々の現場へのリスペクトです。これは思いやりを大切にし、本社と現場が協力しながら対応している社風があると感じました。インバウンドのお客様が増えて忙しくなった事や未経験の事にも前向きに楽しみながらお仕事をされていると様子にはとても感銘いたしました。
本社も現場も高山に誇りを持ちながら外国人には日本人代表としてWelcomeのお気持ちを大切にしていること。誇るべき高山を選んでいただいたことを大切にしていると強く感じました。高山が世界の人気観光地として発展を遂げたのは、このようなお気持ちがツーリストにも伝わり、ツーリストが良い思い出を作っているのも一因だと気が付きました。
私も観光に携わる一人の日本人として大いに見習いたいと感じた素敵な時間でした。
高橋英知